Turkish Pottery, 2016

Turkish Pottery, 2016

2013/01/11

Pudding Shopへ

◆9日目◆

トルコ最後の夜。
イスタンブールで、どうしても立ち寄らなくてはいけないお店があった。
「Pudding Shop」というレストランだ。
 
 
イスタンブールのプディング・ショップは、バック・パックひとつで旅を続けているヒッピーたちにとって、他に例を見ないほど有名な店だった。伝説的な店、といってもよかった。
いわく、あそこに行けば何でも手に入る。
いわく、あそこに寄ればどんな情報も手に入る。
いわく、あそこで待っていれば誰にでも会える・・・・・。 
                   ―沢木耕太郎『深夜特急5』新潮文庫
  

陸路でヨーロッパ~アジア間を旅する場合、アジアから来ても、ヨーロッパから来ても、イスタンブールを必ず通る。つまり、イスタンブールは旅人の交差点のような街なのだ。スルタンアフメット駅近く、線路沿いにあるこの店は、かつて旅人たちが情報交換をする店だった。
この店には有料の掲示板があって、「カメラ買います」「バスの同乗者募集」「仕事ください」などというメモ書きが無数に残されている。この情報を求めて多くの旅人が集まってきたというわけだ。
『深夜特急』の中で、尊敬する旅人:沢木さんが訪れた場所と知り、トルコに行くならPudding Shop!と思っていた。

実はその掲示板が、まだ残されていた!


多くの旅人が通り過ぎた場所に私もいるんだなと思うと、とても嬉しかった。
 
感激しながら眺めていると、Ismetさんという紳士な店員さんが、店について話をしてくれた。
 
「Pudding Shopは、1957年に営業を始めました。当時はプディングを名物とするカフェだったのでこの名前がつきました。でも、たくさんの旅人たちが宣伝してくれたおかげで店が繁盛しまして、今ではレストランになっているのです。私はこの店に来て21年になります」
 
え?21年!?
 
なぜそんなに長くここにいるのかと理由を聞くと、
「この店にいると、今日あなたが日本から来てくれたように、たくさんの人と出会えるからです」
 
なんてステキなの!トルコ最後の夜に、Pudding Shopの歴史を見てきた店員さんに会えてさらに感激した私は、一緒に記念写真を撮ってもらった。
 

ちゃっかり『深夜特急』も一緒に(笑)
ちなみに(沢木オタクみたいだけれど)、このPudding Shopが登場する『ミッドナイト・エクスプレス』という映画を観て、あの名作は『深夜特急』というタイトルになったそうだ。
 

ちなみに、これがPudding Shopのプディング。
とても甘くて、でもコーヒーに合って美味しかった。
 デザートのプディングを堪能していると、隣に座っていた白髪の老婦人が「あなたは日本人ね」と声をかけてきた。「そうです」と答えるとにこにこ。おばあさんに折鶴を差し上げると喜んで、「私の父の兄が、昔大阪に住んでいたの。折り紙を見ると叔父を思い出すわ。父も叔父も、もう亡くなってしまったけれど・・・」

 
おばあさんはグループで来ているようで、それ以上は会話せず私たちはホテルに戻ったが、彼女が浮かべた少しさびしそうな表情が、その夜ずっと残っていた。

日本に帰ってPudding Shopの写真をプリントアウトして、手帳に入れた。
ときどき取り出して眺めては、次はどこに行こうか?と考えている。