Turkish Pottery, 2016

Turkish Pottery, 2016

2016/09/21

くるり「NOW AND 弦」@Bunkamura オーチャードホール





















2016年9月20日(火)@Bunkamura オーチャードホール
くるり「NOW AND 弦」1日目


 2007年12月、のちにライヴアルバム『Philharmonic or Die』に収録されるくるりのコンサートがパシフィコ横浜で行われた。予定が合わなかったかチケットが取れなかったかで行くことができず、ずっと後悔していたのだが、9年間持ち越した無念は今夜「思い続けていて良かった!」という嬉しさに変わった。

 結成20周年を記念したアルバム再現ライヴ「NOW AND THEN」というシリーズ企画を遂行中のくるり。ついに、クラシック音楽に傾倒した『ワルツを踊れ』『Philharmonic or Die』の番が回ってきた。本作に参加したFlip Philipp氏とウィーン・アンバサーデ・オーケストラのメンバーが来日し、オケ編成のコンサートが9年ぶりに行われたのだ。

 入口では本日のプログラムが配られた。開演前からセットリストが明らかになっているのは、クラシックのマナーに則った演出のようだ。コンサートは、指揮者を入れて20人余りのオーケストラをフィーチャーした「Remember me」でスタート。ロックバンドのステージを見ているとは思えない優雅な始まり。サポートドラムのCliff Almondがスティックで合図をすると、2曲目は『Philharmonic or Die』にも収録されている「ジュビリー」が演奏され、「今」と「あの頃」がステージの上で緩やかにつながる。セットリストの中心に置かれていた曲は「ブレーメン」。ステージが黄金色の光に照らされ、ドラマチックな前奏が始まった。「NOW AND 弦」は単に再現ライヴということではなく、当時の曲も演奏しながら、ストリングスアレンジされた新旧の名曲を織り交ぜたセットリストになっている。ただ『ワルツを踊れ』収録曲は、もともと音作りの段階でオケを組み込んでいるためか、生演奏されると曲の美しさが際立つ。抑揚を効かせたクライマックスで締めくくると、これまでで一番大きな拍手と歓声が上がった。



 指揮者のFlipはタキシードで身を固め一団を率いている。ひとつ思ったのは、オーケストラの指揮者も、ロック音楽で指揮をすると、クラシックのときよりノリノリになるようだ。ときおり腰を揺らしながらタクトを振る後ろ姿がチャーミングで「chili pepper japones」のときなどは「Pepper, pepper, pepper〜」と全身でクレッシェンド。「琥珀色の街、上海蟹の朝」ではラップとストリングスが融合し、オーケストラのメンバーもリズムに合わせて肩を揺らす。ハンドマイクで歌う岸田氏は「路地裏のニャンコ」ポーズを決めている。もうこれは、音楽のジャンルも、真面目も不真面目も、すべての境界線を軽やかに超えた「くるり」という音楽である。岸田氏が現在12月の初演に向け交響曲を書いているのは『ワルツを踊れ』で出会ったFlipに影響されたからだそうだ。

 前日に行われた京都音博は、くるりの出番の直前に天候の悪化で中止。くるりの2人にとっても共演ミュージシャンやスタッフにとっても、ようやく幕が上がって、思いの込もったステージであったに違いない。今夜も台風の影響で、開演前の渋谷は土砂降りに近い雨が降っていたが「ここに皆さんと居合わせたことを嬉しく思います」と岸田氏。ラストソング「Remember me」を演奏したのち、スタンディング・オベーションに応えメンバーが再登場する。「練習した曲はもったいないので全部演奏しちゃったんですが」と断った上で、観客総立ちの中(9年前のパシフィコ横浜と同様に!)本日2度目の「ブレーメン」でコンサートは締めくくられた。
 
 9年越しの思いを果たせた嬉しさと、まだ大学生だった当時の記憶が同時に湧き上がり胸がいっぱい。くるりの音楽を好きでよかった。時の流れを愛おしく感じる夜だった。