バカラックを観てきた。
まさか自分が生きているうちに、しかもこんなに近くで観られるなんて。
いつものビルボードとはすこし違う雰囲気で、待っている私も緊張する。
隣のテーブルには、上品な格好をした年配の女性が座っていた。
ガラスのお皿にカシス色のアイスクリームが載っていたのだけれど、彼女が手を付ける前に照明が暗くなり、ステージが始まった。
Arthur's ThemeやAlways Something There To Remind Meといった名曲たちに、胸がときめく。
だれが歌っても、普遍的な輝きを持った音楽。
メロディーの素晴らしさというのは、こういうことなんだと思う。
時折立ち上がり、指揮をする。
熟練した指の動きもかっこいい。
1曲1曲、ボーカリストやプレイヤーを丁寧に紹介する。
その佇まいは、アーティストというよりも「音楽の仕掛人」「職人」といった感じだ。
ミッキーマウスと同じ85歳のバカラック。
東京の夜に「音楽の魔法」をかけてくれた。
終演後、お皿の上のアイスクリームはすっかり溶けてしまっていた。
けれども隣の女性は、満足そうな顔をして席を立った。