ゴールデンウィークで実家に帰省中。
田舎の夜は、深くて暗くて静まりかえっている。
私がまだこの家の住人だった中学生の頃、遠距離恋愛していた男の子がいた。ケータイもメールもない時代だったから、家族が寝静まった深夜の時間に、この部屋で声を殺してこっそり長電話をしていた。
学校のこと、好きな音楽のこと、遊びのこと。話は尽きなくて、まぶたの裏にその子の過ごしている日常が浮かぶようで楽しかった。
あるとき私が「今、何が見える?」と聞くと、彼は「星空」と答えた。
彼の部屋の天井には星形の蛍光シールを貼って作った天の川があって、それが今暗闇で光っているのがベッドに仰向けになっている彼から見えるのだという。
それを聞いて、私もさっそく蛍光の星を買ってきて自分の部屋の天井に貼った。ベッドに仰向けになって電話をしながら青緑色に光る星を眺めていたのは、もう10年以上も前のこと。
記憶や感覚は、長い時間忘れていたのに、些細なことがきっかけで突然甦ることがある。
14歳の私が作った星空は、大人になった私の視界に飛び込んできて、今私を眠らせてくれない。